勃起不全改善薬★バイアグラ
バイアグラは英国ファイザー研究所で合成開発された男性用性機能障害治療薬である。 1998年9月には欧州連合(EU)でも販売が許可された。 日本ではファイザー製薬が平成11年3月に発売が許可された。 現時点でも個人的に輸入し服用している人は少なくなく、 実際、バイアグラの服用が原因と考えられる国内死亡例も報告されている。
勃起のメカニズムと作用機序
健常男性の場合、性的興奮により中枢神経が刺激され、 それが陰茎に伝達されると、
先ず、
陰茎血管の平滑筋で一酸化窒素(NO)が産生される。 このNOが血管拡張作用を持つサイクリックGMPを産生させる。
その結果
陰茎内の血管平滑筋が弛緩して血液が流入し、勃起状態に至る。
一方インポテンツ(勃起不全)の患者では 器質的もしくは精神的な要因などにより、陰茎に十分量の血液が流入せず、 勃起状態にならない。
バイアグラは、この陰茎勃起に至る過程の中で、サイクリックGMPを分解する酵素である ホスホステラーゼ5(PDE5)を阻害することで薬理作用を発揮する。
すなわち
同剤を服用することでPDE5の作用が阻害され、間接的に陰茎血管のサイクリックGMP の量が増え、血流不全による勃起不全が改善したり、勃起時間を延長させる効果を生じる。
米国での使用実態と効果
米国においてバイアグラ(クエン酸シルデナフィル)25mg、50mg、100mg が処方箋を必要とする薬剤として認可されている。
常用量は50mg
性行為の約1時間前に経口投与するのが一般的である。 場合によって 性行為の30分~4時間前に最大100mgまで服用することができる。 1日の最大服用回数は1回である。
バイアグラの有効性
勃起障害者1797人を対象に行われた二重盲検試験では プラセボ郡に比べてバイアグラ服用郡での勃起異常が有意に改善したと報告されている。 また重度の勃起障害患者にたいして行われたバージニア大の研究では 50mg及び100mg用量で46~73%の有効率を示すことが認められている。
副作用と相互作用
バイアグラが作用するPDEは、中枢神経、循環器、消化器、生殖器、血球系など 各組織に広く分布しているが、同剤はそのうちPDE5と呼ばれるタイプに選択的に作用する。 PDE5は陰茎以外の血管平滑筋や血小板に分布している。 通常量を服用しただけでは血行動態への影響は極めて軽度であると言われている。
単剤での副作用
頭痛、紅潮、消化不良などが主な症状である。 24週間、532人を対象に行われた南カルフォルニア大での研究では 副作用が原因で服用を中止した例は全体の2%であり、
副作用症状としては
頭痛が22%
紅潮20%
消化不良10%
だったと報告されている。
また「青い閃光が見える」「青い星が見える」「青と緑の区別が付かない」 などの視覚異常(特に色覚)が報告されている。 これらの視覚異常は一過性であり、長くとも数秒間程度で回復する。 視覚障害は、服用量が多いほど頻度が高い。 網膜中に存在するPDE6が高用量のバイアグラによって阻害されることで発現すると考えられる。
一方、他剤との併用に関しては、ニトログリセリンなどの硝酸剤との併用は禁忌である。 併用により、急激な血圧低下を生じる可能性があるためであり、死亡例も報告されている。 発現機序は完全に明らかにされていないが、 バイアグラのPDEを介した血管拡張作用と、硝酸剤のNOを介する血管拡張作用が相乗効果を 示すためと考えられている。
米国と日本の死亡例
バイアグラは、98年3月末から7月までの間に延べ360万人以上の患者に処方されたが 同剤服用後の死亡としてFDAに報告された数は 米国内でも69人(男性は66人)に上回っている。 この69症例の死亡時年齢や死因、合併症の有無は
- ●死因(69例)
- 脳卒中2例
- 心臓への影響46例
- 21例/心筋梗塞またはその疑い、
- 17例/心停止
- 4例/心疾患の徴候
- 3例/冠状動脈疾患)
- 21例/不明
- ●年齢
- 平均年齢64歳
- (29歳~87歳)
- ●服用量
- 50mg-26例
- 100mg-3例
- 50~100mg-2例
- ●死亡までの投与期間
- 4~5時間以内-25例(うち18例が性行為中または直後)
- 使用当日-3例
- 翌日-7例
- 2日目-4例
- 3~4日目-2例
- ●合併症(69例)
- 冠状動脈疾患の起因分子
- 51例
- 高血圧、高コレステロール血症
- 喫煙、糖尿病、肥満
- 心疾患の既住歴
- を有するもの
- 5例
- 危険因子をもたないもの
- ●併用薬
- ニトログリセリンまたは硝酸系薬剤が12例
日本においての死亡例
この患者は60歳の男性で高血圧、糖尿病、不整脈の治療中でありニトログリセリン貼付剤を使用していた。バイアグラを1錠服用した後性行為を行ったが、暫くして心肺停止状態に陥り、服用3時間半後に死亡した。
死因は不明でバイアグラ服用との因果関係は明らかでないと報告されている。
未承認薬であったとはいえ、このように我が国において間違った情報や情報不足によると思われる死亡例が出たことは非常に残念である。
具体的には
バイアグラは性機能障害の患者に全て効くわけではないこと。
性的欲求や性的衝動そのものを高めさせる作用はないこと
服用前は必ず専門医に受診すること
硝酸剤を使用している場合はバイアグラを服用しないこと
なお、バイアグラに関する最新情報は
FDAのホームページから入手可能である。
是非ご覧頂きたい。 http://www.fda.gov/cder/consumerinfo/viagra/
NIKKEI Drug InformationDI 11/10号より抜粋